DockerとKubernetesとは何か?
Docker(ドッカー)は、アプリケーションを「コンテナ」という軽量な仮想環境で実行するためのプラットフォームである。2013年3月26日に当時のdotCloud社(現Docker社)が、Dockerをオープンソースとしてはじめて公開 し、現在では現代の開発環境の定番 となっている。
Kubernetes(クバネティス)は、複数のコンテナを効率的に管理・運用するためのコンテナオーケストレーションシステムである。2014年6月10日にGoogleがKubernetesをオープンソースとして公開 し、2017年10月に開催されたDockerCon Europe 2017で、Dockerが製品にKubernetesを統合することを発表。コンテナオーケストレーションの事実上の標準がKubernetesに決定した 。
簡単に言えば、Dockerは「一つのアプリケーションを動かすための箱」を作る技術であり、Kubernetesは「たくさんの箱を効率的に管理する」技術である。この二つは密接に連携し、現代のソフトウェア開発において欠かせない技術となっている。
DockerとKubernetesの基本情報
Dockerの基本概念
Dockerは、仮想化技術の1つである「コンテナ型仮想化」を使ってアプリケーションを実行するためのソフトウェアであり、1つのOS上で任意の数のDockerコンテナと呼ばれる環境を作成 する。従来の仮想マシンとは異なり、ホストOSのカーネルを共有するため、軽量で高速な起動が可能である。
- コンテナ:アプリケーションとその実行環境をパッケージ化した軽量な仮想環境
- イメージ:コンテナを作成するためのテンプレート
- Dockerfile:イメージを作成するための設計書
- Docker Hub:イメージを共有するためのクラウドサービス
Kubernetesの基本概念
Kubernetesは、複数台のコンピュータをネットワークで接続した「クラスタ環境」を使い、「ノード」と呼ばれるクラスタ内のコンピュータ上で実行されるサーバーソフトウェアを管理するソフトウェアシステム である。
- Pod(ポッド):コンテナを実行する最小単位
- Node(ノード):Podが実行される物理または仮想マシン
- Cluster(クラスタ):複数のノードをまとめた実行環境
- Service(サービス):Podへのアクセスを管理するネットワーク機能
DockerとKubernetesの詳細情報
技術的進化の歴史
第一段階(2013-2016年)では、Dockerの登場により、コンテナ技術が一般的な開発者にも利用可能になりました。この時期は、主に開発環境での利用が中心でした。第二段階(2017-2020年)では、Kubernetesの台頭により、本番環境でのコンテナオーケストレーションが現実的になりました。第三段階(2021年以降)では、セキュリティやガバナンスの強化、サーバーレスコンテナの登場など、エンタープライズでの本格採用に向けた機能の充実が進んでいます 。
2025年の最新動向
Kubernetesの普及が進むなか、コンテナ化されたアプリケーションのストレージ需要がますます高まっています。Kubernetesがはるかに成熟した現在では、データベースのようなステートを持つコンポーネントも、アプリケーション本体と同様にコンテナで実行するケースが増えています 。また、IoT(モノのインターネット)とKubernetesは自然な組み合わせとなり、現在では、Kubernetesのスタックはさまざまな場所に展開されており、銀行や小売店舗など、従来はローカルでデータ処理を行っていた遠隔地のオフィスや支店にも導入されています 。
コンテナランタイムの変化
Kubernetesの次のマイナーバージョン1.20が、2020年12月8日にリリースされました。その中でも、12月初頭にGitHubや公式Slack、Twitterなどを賑わせたのがDockershimの非推奨化でした 。これにより、Kubernetesはcontainerdやcri-o といった、より軽量で効率的なコンテナランタイムに移行している。
DockerとKubernetesのメリットとデメリット
Dockerのメリット・デメリット
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
開発効率 | • 環境構築の時間短縮 • 「どこでも動く」環境の実現 • チーム間での環境統一が容易 | • 初回のDockerfile作成に時間がかかる • Docker概念の学習コストが必要 |
リソース使用量 | • 仮想マシンより軽量 • 高速な起動・停止 • ホストOSのリソース効率的利用 | • ホストOSに依存する制約 • WindowsコンテナとLinuxコンテナの互換性問題 |
運用・保守 | • アプリケーションの分離 • バージョン管理が容易 • ロールバックが簡単 | • コンテナイメージの管理が必要 • セキュリティ脆弱性の継続的なチェックが必要 |
スケーラビリティ | • 必要な分だけコンテナを起動可能 • 水平スケーリングが容易 | • 単体では自動スケーリング機能なし • 負荷分散は別途設定が必要 |
Kubernetesのメリット・デメリット
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
運用自動化 | • 自動スケーリング機能 • セルフヒーリング(自動復旧) • ローリングアップデートの自動化 | • 初期設定の複雑さ • YAML設定ファイルの学習が必要 • デバッグが困難な場合がある |
可用性・信頼性 | • 高可用性の実現 • 障害時の自動フェイルオーバー • 複数ノードでの冗長化 | • クラスタ管理の複雑さ • ネットワーク設定の難しさ • 障害原因の特定が困難な場合がある |
リソース管理 | • 効率的なリソース配分 • 負荷に応じた自動調整 • インフラコストを平均30%削減 | • リソース設定の最適化が難しい • 監視ツールの導入が必要 • 運用ノウハウの蓄積に時間がかかる |
開発・デプロイ | • 新機能のリリースサイクルを平均40%短縮 • CI/CD パイプラインとの連携 • マイクロサービス構成の実現 | • 学習コストが非常に高い • 運用チームの専門知識が必要 • 小規模プロジェクトではオーバーエンジニアリング |
導入判断の指標
技術 | 適用場面 | 推奨しない場面 |
---|---|---|
Docker | • 開発環境の統一化 • マイクロサービス構成 • CI/CDパイプラインの構築 • レガシーアプリケーションの移行 | • 単純な静的サイト • ハードウェア直接制御が必要 • リアルタイム性が最重要 • 極小規模なプロジェクト |
Kubernetes | • 大規模なマイクロサービス • 高可用性が必要なシステム • 自動スケーリングが必要 • 複数環境での運用 | • 単一アプリケーション • チーム規模が小さい(5人未満) • 学習リソースが限られている • シンプルなWebサイト |
Gartnerの調査によると、コンテナ化導入企業の70%以上が運用コストの削減を実現しています 。ただし、これらのメリットを享受するためには、適切な学習投資と運用体制の構築が不可欠である。特に、運用効率の50%向上や、障害対応時間の70%削減を実現 するためには、継続的な改善とチームのスキル向上が重要となる。
DockerとKubernetesの使い方
Dockerのインストールと基本操作
Windows環境でのインストール手順
Dockerの公式サイトにアクセスし、Dockerのインストーラをダウンロードします。「Download Docker Desktop」をクリック して、インストーラをダウンロードする。
# インストール後の動作確認
docker --version
# Helloワールドの実行
docker run hello-world
# Nginxコンテナの起動
docker run -d -p 8080:80 nginx
# 実行中のコンテナ確認
docker ps
# コンテナの停止
docker stop <コンテナID>
Ubuntu環境でのインストール手順
# 既存パッケージの削除
for pkg in docker.io docker-doc docker-compose docker-compose-v2 podman-docker containerd runc; do sudo apt-get remove $pkg; done
# GPGキーとリポジトリの追加
sudo apt update
sudo apt install ca-certificates curl gnupg
sudo install -m 0755 -d /etc/apt/keyrings
curl -fsSL https://download.docker.com/linux/ubuntu/gpg | sudo gpg --dearmor -o /etc/apt/keyrings/docker.gpg
sudo chmod a+r /etc/apt/keyrings/docker.gpg
echo \
"deb [arch="$(dpkg --print-architecture)" signed-by=/etc/apt/keyrings/docker.gpg] https://download.docker.com/linux/ubuntu \
"$(. /etc/os-release && echo "$VERSION_CODENAME")" stable" | \
sudo tee /etc/apt/sources.list.d/docker.list > /dev/null
# Dockerのインストール
sudo apt update
sudo apt install docker-ce docker-ce-cli containerd.io docker-buildx-plugin docker-compose-plugin
# ユーザーをdockerグループに追加
sudo usermod -aG docker $USER
newgrp docker
Dockerfileの作成例
# シンプルなWebアプリケーション用のDockerfile
FROM node:18-alpine
# 作業ディレクトリの設定
WORKDIR /app
# package.jsonのコピーと依存関係のインストール
COPY package*.json ./
RUN npm ci --only=production
# アプリケーションコードのコピー
COPY . .
# ポートの公開
EXPOSE 3000
# アプリケーションの実行
CMD ["npm", "start"]
Kubernetesのセットアップと基本操作
Minikubeを使った学習環境の構築
Kubernetesの構築には通常1台のマスターサーバ、3台以上のノードサーバが必要ですが、学習用にに1台のサーバ上でKubenetesを動かすことができるMinikubeが提供されています 。
# Minikubeのインストール(Linux)
curl -LO https://storage.googleapis.com/minikube/releases/latest/minikube-linux-amd64
sudo install minikube-linux-amd64 /usr/local/bin/minikube
# kubectlのインストール
curl -LO "https://dl.k8s.io/release/$(curl -L -s https://dl.k8s.io/release/stable.txt)/bin/linux/amd64/kubectl"
sudo install -o root -g root -m 0755 kubectl /usr/local/bin/kubectl
# Minikubeクラスタの開始
minikube start
# クラスタの状態確認
kubectl cluster-info
kubectl get nodes
基本的なアプリケーションのデプロイ
# Deploymentの作成
kubectl create deployment nginx-app --image=nginx:1.20
# Podの確認
kubectl get pods
# Serviceの作成(外部アクセス用)
kubectl expose deployment nginx-app --type=NodePort --port=80
# サービスの確認
kubectl get services
# アプリケーションへのアクセス
minikube service nginx-app --url
YAML形式のマニフェストファイル例
# deployment.yaml
apiVersion: apps/v1
kind: Deployment
metadata:
name: web-app
labels:
app: web-app
spec:
replicas: 3
selector:
matchLabels:
app: web-app
template:
metadata:
labels:
app: web-app
spec:
containers:
- name: web-app
image: nginx:1.20
ports:
- containerPort: 80
resources:
requests:
memory: "64Mi"
cpu: "250m"
limits:
memory: "128Mi"
cpu: "500m"
---
# service.yaml
apiVersion: v1
kind: Service
metadata:
name: web-app-service
spec:
selector:
app: web-app
ports:
- protocol: TCP
port: 80
targetPort: 80
type: LoadBalancer
マニフェストの適用と管理
# マニフェストの適用
kubectl apply -f deployment.yaml
# リソースの確認
kubectl get deployments
kubectl get pods
kubectl get services
# Podのログ確認
kubectl logs -l app=web-app
# Podへの接続
kubectl exec -it <pod-name> -- /bin/bash
# スケールアップ/ダウン
kubectl scale deployment web-app --replicas=5
# ローリングアップデート
kubectl set image deployment/web-app web-app=nginx:1.21
# リソースの削除
kubectl delete -f deployment.yaml
実践的な運用コマンド
# リソース使用量の確認
kubectl top nodes
kubectl top pods
# イベントの確認
kubectl get events --sort-by=.metadata.creationTimestamp
# デバッグ用のbusyboxコンテナ起動
kubectl run debug-pod --image=busybox --restart=Never -- sleep 3600
# ネットワーク接続のテスト
kubectl exec debug-pod -- wget -qO- http://web-app-service
# 設定情報の確認
kubectl describe deployment web-app
kubectl describe service web-app-service
# ヘルスチェックの設定例
livenessProbe:
httpGet:
path: /health
port: 80
initialDelaySeconds: 30
periodSeconds: 10
readinessProbe:
httpGet:
path: /ready
port: 80
initialDelaySeconds: 5
periodSeconds: 5
まとめ
DockerとKubernetesは、現代のソフトウェア開発とインフラ運用において不可欠な技術となっている。運用効率の50%向上や、障害対応時間の70%削減を実現 できるこれらの技術は、学習コストはあるものの、その投資に見合った大きなメリットを提供する。
Kubernetesがはるかに成熟した現在では、データベースのようなステートを持つコンポーネントも、アプリケーション本体と同様にコンテナで実行するケースが増えています 。また、IoTやエッジコンピューティングの分野でも活用が進んでおり、今後さらなる発展が期待される。
初心者は、まずDockerの基本概念とコンテナの作成・実行方法を学び、その後Minikubeを使ってKubernetesの基本操作を習得することをおすすめする。段階的な学習により、これらの強力な技術を効果的に活用できるようになるだろう。
最後に
DockerとKubernetesは、単なる技術ツールではなく、現代のソフトウェア開発パラダイムを変革する技術基盤である。Kubernetesは年に3回程度の新バージョンリリースが行われるため、技術の進化が非常に速いのが特徴 であり、継続的な学習が重要となる。
今後、クラウドネイティブな開発がますます主流となる中で、これらの技術への理解と実践経験は、エンジニアとしてのキャリアにおいて大きなアドバンテージとなるであろう。実際に手を動かして学習し、現場での活用を通じて、これらの技術の真価を体感していただきたい。
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